海外育児日記
突然の登校拒否 その2
チャイルドケアーセンターに着くと、園長先生がすぐに駆け寄ってきた。開口一番、息子がどうして先週の木曜日に泣いたのか、どうしてチャイルドケアーセンターに来るのを嫌がるのか、心当たりはないかと聞いてきた。それはまさに私が聞きたかったことだ。それを聞きに来たと言っても過言ではない。さらに息子が家でそのことについて何か言っていたかと聞かれた。私は息子に何度も聞いてみたが、ちっとも要領を得ないことを話した。
息子がピーターに叩かれたというのは、言わないことにした。その代わりに、もしかしたら息子は協調性に欠けていて、友達と仲良くできないのではないかと聞いてみると、そんなことはないと太鼓判をおしてくれた。私は、とにかくこのままの状態が続くことは避けたいので、今日は息子が落ち着くまでしばらく付き添っていたいと申し出ると、快く承諾してくれた。
話が終わって、私がお友達と遊んでおいでと言っても、息子はもじもじしていて私の手を離そうとしない。仕方ないので、私は息子の手を引いて誰もいない積み木のあるコーナーに行き、一緒に遊ぶことにした。しばらくすると、女の子がそっと息子のそばにやって来た。息子はやはり嬉しいようで、わざわざその女の子の隣に座った。そんなところは結構積極的である。二人並んで静かに遊んでいる。とてもおとなしい子だ。
次に息子はブロックのあるコーナーに移って遊び始めた。今度はピーターと思しき黒人の男の子が息子のそばにやってきた。もし本当に彼に叩かれたのなら、怖がったり、私に言いつけたりするはずなのに、静かに二人で遊んでいる。ピーターはブロックを拾っては息子に手渡してくれている。その男の子も、非常に物静かで優しい子だ。もし叩いたとすれば、間違いなくうちの子のほうだろう。見ていれば分かる。
私が息子と遊んでいても、保母さんたちはしょっちゅう息子を気にかけてくれて、「ジーン、おいで」「ジーン、一緒に遊ぼう」と声をかけてくれる。時々そばにきて、いつも息子がどんな遊びをしているか、何が好きなのかを、私に説明してくれる。
息子の様子が段々と落ち着いてきたので、試しに「ママ帰ってもいい?」と聞いてみるが、「ダメ」と言う。それでも何度か試しているうちに、いいよと言わないまでも、「ママにバイバイのチュウをして?」と言うと、キスしてくれるようになった。
そろそろ、いいかなと思い、息子をみんなが遊んでいる外へ連れ出した。いつも息子と遊んでくれている保母さんに息子を預け、「バイバイ」と言って私が帰ろうとしたら、案の定、泣き出した。「ダメー!イヤー!」を繰りかえしている。ちょっと迷ったが、案外私が居なくなればなったで、そのうち泣き止んで、お友達と遊び始めるかも知れないと思い、私は息子を振り切るようにして、その場を立ち去った。
背中越しに息子の泣き声が聞こえる。「ママー!ママー!」と叫んでいる。そっとドア付近に隠れて覗くと、息子が私の姿を探し、泣きながら、きょろきょろしているのが見える。保母さんが息子の気を引こうと頑張ってくれている。
ずいぶん時間が経ったが、息子はあきらめるどころか、まるで気が狂ったように泣き叫び続けている。とうとう私の姿を捜し求めて走りだし、出入り口のドアのところまで来てしまった。さすがに保母さんも息子の後を追いかけてきていた。息子にバイバイしてから約30分後のことだった。私は、もうここまでと観念した。
保母さんたちに迷惑をかけたことを詫び、私は息子を連れて帰ることにした。帰り際、園長先生が言うには、最初のうちは何もかもが物珍しくて楽しく遊んでいても、何日かすると、急に親が恋しくなって泣きだす子供が非常に少ないがいるとのこと。さらに、夫が台湾に帰国してしまったことも、息子の精神状態を不安定にした大きな原因ではないかと言う。とにかく、また明日も懲りずにいらっしゃいと言ってくれた。面白いことに、息子は泣きじゃくりながらも保母さんたちに「シーユー、バイバイ」を言うのを忘れなかった。
翌日は、いつものように母が息子をチャイルドケアーセンターに連れて行った。前日の報告を細かく私から聞いていた母は、息子が納得するまで一緒にいようと決めていたらしい。ところが、いつまでたっても、イヤを繰り返すばかりだったそうだ。でも、昨日よりはずっと活発に遊んでいたようだ。11時半になって、息子は急に帰ると言い出し、勝手に保母さんたちに笑顔で「シーユー、バイバイ」と手を振り、母の手を引いて帰ってきてしまった。今日もやっぱりだめだった。
今にして思えば、息子がチャイルドケアーセンターに行っている間に、まるで夫が息子の前から姿を消すように帰国してしまったのが一番良くなかったのかもしれない。もしかしたら、息子は自分がチャイルドケアーセンターに行っている間に、今度は、ばあば(祖母)かママがいなくなってしまうかもしれないと思い込んでいるのかもしれない。どうしたらいいのだろうか。この登校拒否はしばらく続きそうだ。
あれからもうすぐ一ヶ月になるが、息子は相変わらずである。一人で居られないくせにチャイルドケアセンターが好きで、「学校、行く、行く」を連発している。おばあちゃんか私が目に入るところにいれば安心して遊んでいられるのだが、姿が見えなくなると泣き出してしまう。その泣き声ときたらものすごくて、一瞬にして息子共々姿を消したくなるほどだ。トイレにも行けやしない。こんな調子なので、我々の足も自然とチャイルドケアーセンターから遠のいてしまう。
そんなある日、語学学校から突然電話が掛かってきた。息子がチャイルドケアセンターに通う気があるのかどうかの問い合わせだった。この無料の託児所の費用はもちろん国から出ており、息子が在籍している以上、来る来ないに関わらず国のお金を使っていることになり、無駄だというわけだ。電話口の女性は私に考える余裕など与えてはくれない。とにかく、来るのか来ないのか、続けるつもりがあるのか無いのか、その一点張りである。せっかくのチャンスなので通って欲しいのだが、実際に行くのは息子である。電話での押し問答の末、今回はあきらめることになった。
息子を連れてチャイルドケアセンターにこれまでのお礼とお詫びに行った。園長先生から、「3ヵ月後、半年後にはジーンもきっと落ち着くに違いないので、またいらっしゃいね」との言葉を頂いた。息子はしばらく神妙な顔をして黙っていたが、きちんと「シーユー、バイバイ」と手を振り、センターを後にした。なんとも残念な結果に終わってしまった。
突然の登校拒否から二ヵ月後。
息子は、今でもチャイルドケアセンターに行きたいと口にしている。「一人で居られなくて泣いちゃうからだめよ」と言うと、「もう一回、学校、行く。もう一回」と言うようになった。
三ヵ月後。
最近になって、息子の様子がまた変わってきた。
「泣かない。大丈夫。一人で行く。ばあば、迎え、来る」と息子が言う。
「一人で居られるの?」の聞くと、
「そう。バイバイする。ばあば、あとで、来る。大丈夫」と答えるのだ。
来学期、また母の通う語学学校に問い合わせてみようと思う。今学期のみという約束で、前回入れてもらったので、許可が下りるとは思えないが、だめもとでトライしてみようと思っている。
追記で、良い結果報告ができたらいいな〜と思っています。
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