海外育児日記




突然の登校拒否 その1


2人が学校へ行っている間に、夫が台湾に帰国した。夫と私はそのことについて息子によく言い聞かせたつもりだった。朝、息子は元気よくダディに「シーユー、バイバイ」と言って、何度も何度もキスをして、母とともに学校に行った。

息子を連れて帰宅した母が、息子がチャイルドケアセンターで何度も泣いた、と園長先生から報告を受けたと言う。帰り道、母が何回も泣いた理由を聞いたが、そのたびに息子が泣きべそをかくので、それ以上聞けなかったらしい。帰宅した息子は、確かに元気がない。

息子の様子が変なのは、夫が帰国したせいなのだろうか。夫がいる間は帰宅の度に、「ダディ!ダディ!」とそばに駆け寄り、抱っこしてもらい、遊んでもらっていた。たまに夫が一人で外出すると、家中探し回り、「ダディ、イナイ、ダディ、イナイ」と連発し寂しそうにしていたが、その日は、チャイルドケアセンターから帰宅しても、ダディのダの字も言わなかった。

以前にも似たようなことがあった。それは、私がシドニーに家探しに行き、自宅を留守にした時のことだった。私は自宅においてきた息子のことが気になって、必死の思いで家探し、その他の雑用を全部済ませ、5日の予定を繰り上げ、2泊3日で帰宅したのだが、その時の息子の様子が今回と少し似ているのだ。

あの日、私は飛行機の帰りの便が変更できなくて、シドニーから20:30発の夜行長距離バスに乗り、自宅のあるゴールドコースト、サウスポートに到着にしたのが翌日の昼の11時過ぎ。息子は母と共に、バスの到着するトランジットセンターに迎えに来ていた。だが、息子は私の姿を見ようともせず、うつむいてベビーカーに乗ったまま、身じろぎひとつしない。まるで人が違ったように、ママとも言わないし、ひと言も話さない。息子の顔を覗き込むと、嫌がってますます帽子を深く被って顔を隠してしまうのだ。

他のお子さんなら、こんな時どんな反応をするのか分からないが、うちの息子は、かなり、いや相当に怒っていた。ママに捨てられたと思ったのだろうか。とにかく、私が留守にした3日間、私の言いつけを守り、とても良い子にしていたらしい。ただの一度もぐずったり泣いたりせず、その時も今回と同じように、息子は「ママ」いう言葉さえ口にしなかったそうだ。

我が家に着いて、やっと、息子のご機嫌が直ったのだが、この時は私が帰宅した際の出来事なので、まだいいとして、夫の場合は逆にいなくなってしまったのだから、もしそれが原因だとすると、事は厄介になりそうだ。

母から事情を聞いた私は、すぐに息子に理由を聞いたが、やはり泣き出しそうになり、それ以上聞くことができない。入浴中、息子の体を洗ってやりながら、再び聞いてみた。すると、息子はチャイルドケアセンターで「パチン、パチン」されたと言う。それも、「いっぱい、パチン、パチン、いっぱい、いっぱい」と言って自分の足を叩くのだ。

「誰に叩かれたの?」と聞くと、「ピーター」だと言う。息子はもう一人の友達、アレックスの名前が発音できない。「アレックスはどうしてたの?」と聞くと、頭を振る。「アレックスには叩かれなかったの?」と聞くと、か細い声で「うん」と言う。「じゃ、ピーターひとりが叩いたんだ」と聞くと、やはりか細い声で「うん」と言う。でも、なんか様子がおかしい。問いただそうとしてもお湯遊びに夢中になっていて要領を得ない。明日は学校へ行くと言うので、その時はそれ以上聞かないことにした。

息子が寝たあとで母と話し合った。理由についての心当たりとか、最近の息子の心理状態についてとか、いろいろ話し合ったが、答えは見つからない。夫に相談しようにも、まだ飛行機のなかだし、とにかく、このまま少し様子をみようということで落ち着いた。

翌朝、いつも通りに出掛けて行ったので安心していると、母が息子を連れて一時間ぐらいで戻ってきた。ドアが開き、息子が「ママ、ママ!」と言って駆け寄ってきた。「どうしたの?」と息子の顔を覗き込むと、まつ毛が濡れていた。

母の話によると、チャイルドケアセンターの前で、突然、行きたくないと大声で泣き出したそうだ。どんなになだめても言い聞かせても泣き止まない。やっとの思いで中に入ると、さらに激しく泣く。いつものように保母さんたちが、息子の名前を呼んで、こっちにおいでと言っても、「イヤー!イヤー!」と泣き叫び、みんなを困らせたそうだ。

母はこれほどに泣き叫ぶ孫を無理やりチャイルドケアセンターに置いてきても良い結果にはならないだろうと判断し、息子に「分かったから、もうお家に帰ろう」と言ったそうだ。すると、息子は途端に泣き止み、保母さんたちに「シーユー、バイバイ」と手を振り、チャイルドケアセンターを後にしたと言うのだ。

帰り道、何度も息子が「がっこう、いく」と言う度に方向転換するのだが、やっぱり「イヤー!」と言うので、また自宅の方向に向かって歩き出す。家に着くまでその繰り返しだったそうだ。

夕方になって夫に電話し、これまでの経緯を話すと、叩かれたにしろ、なんにしろ、来週は私がチャイルドケアセンターに息子を連れて行き、事情を話し、保母さんにも心当たりがないかどうか聞いてきた方がいいと言う。母も手に負えないのでそうして欲しいと言うので、来週は私が付き添っていくことになった。