海外育児日記
蝉のシャツ
蝉の抜け殻は全部でいくつ?
正解は5つ
ただ今、オーストラリアは夏真っ盛り。
生い茂る木々、蝉の鳴き声が聞こえる。
空は真っ青で、どこまでも高く、広い。もしかして南半球の空全部が見えているのでは、と我が目を疑うほどである。
ベビーカーを押しながら、ふと街路樹に目をとめると、蝉の抜け殻があちらこちらにくっついている。日本にいた時には蝉の抜け殻なんて目にしたことがなかった。夏になれば、東京でさえ蝉の鳴き声が聞こえるいうのに、抜け殻を目にした記憶がない。
日本という国は忙しすぎるのかもしれない。季節の移り変わりを感じるのはファッション雑誌やショーウィンドウからだし、日暮れとともに、街はネオンでギラギラし始める。刺激を求め、流行を追い、お金が動く。こちらで暮らしていると、いかに東京が混沌とした街なのかが分かる。そんな巨大都市の片隅で生活していたなんて、遠い昔のことのように思える。便利で住みよい国だが、ずっとそこで暮らしたいとは思えない。でも、年に一回、いや二年に一回ぐらい買い物に行きたいなあ〜。蝉の抜け殻を取りながら、そんなことを考えていた。
息子に蝉の抜け殻を一つ手渡すと、
「ナニ? コワ〜イ! ナニ?」と言って、手を引っ込めてしまった。
生まれて初めて目にした、中身のない虫みたいなもの。
「こわいの? 全然こわくないよ。殻だけだよ。ねぇ、見て。」
「イヤー! コワ〜イ!」
さて、どうしよう。
「ねぇ、これ、何だか知ってる?」
「これね、蝉のシャツなんだよ」
「蝉がね、着ていたシャツが小さくなっちゃったから、そのシャツをここに脱いで置いて行ったんだよ」
「ねぇ、ジンだって、小さくなって着れなくなっちゃったシャツあるでしょ?」
「そのシャツはどうしたんだっけ?」
「みんなあげちゃったよね?」
「おぼえてる?」
「この蝉のシャツだって、ジンの小さくなっちゃったシャツとおんなじなんだよ」
「だから、蝉は、ここでシャツをそっと脱いで、置いていったんだよ」
「わかる?」
「ねぇ、ジン」
「この小さくなって着れなくなっちゃった、蝉のシャツ、こわい?」
息子は、恐る恐る小さな手を差し出して言った。
「へいき」
その後、息子は蝉の抜け殻が大好きになり、その道を通るたびに、蝉のシャツ、蝉のシャツ、と言っては取ってくれとせがむ。恐がらなくなったのは良かったが、私たちは本当に困っている。いくらたくさん蝉がいたって、そうそう毎日毎日、蝉はシャツを脱いではくれない。もうすぐ秋がやってくる。さて、どうしたものか。
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