グランマーのオーストラリア日記




決算大バーゲンセールと
盗まれた財布の行方



六月のシドニーはどこもかしこも押すな押すなの大売出しで賑わっておりました。オーストラリアでは、クリスマス時期と六月はバーゲンシーズンです。特に、六月はオーストラリア経済にとって決算時期であり、会計年度末にあたります。

振り返ってみれば、バーゲンセールは四月ごろから徐々に始まりました。五月九日は母の日です。あちらこちらで「母の日のプレゼントに」のセール文字が並んでいました。その後、どんどんバーゲンセールはエスカレートしていきました。

六月になりましたら、どこを歩いていても、「SALE」「SALE」の大きな赤文字が消費者を誘惑しておりました。シティの中心地のみならず住宅地の繁華街でも、みんな大きなショッピングバックを手に、日本の師走のような賑わいでした。

魅惑の○○%OFF は衣類や靴・バッグばかりではありません。キッチン用品、家庭雑貨、健康食品やサプリメント、おもちゃに貴金属。さらに、コンピューター、大型家電製品、家具、車にいたるまで、ありとあらゆる商品が対象です。世のお父さんたちもじっとしていられません。オリンピック景気で始まったバブル経済は、オーストラリア人のかつてないほどの個人消費に支えられているというのがわかる気がします。

そんな六月中旬、我が家に大事件が起きたのです。
私たちも例に漏れず、バーゲン品を物色しようと、家族揃って近所のショッピングセンターにおりました。ベビーカーを押していた私は、何度も娘からベビーカーの側を離れないようにと言われていました。娘はあの日コートを着ていたせいで、ポシェットをベビーカーに掛けていたのです。そう、あの日に限ってなのです。

普段から私は警戒心に欠けていると言われているのですが、あの日もいつのまにか、すっかり日本にいるような気分になって、ベビーカーを近くに置いたまま、ショッピングに夢中になっていました。そのうち孫の姿が見えなくなって探し回ったりと、すっかりベビーカーにさげたバックのことを忘れていました。幸い孫はすぐ側のおもちゃ売り場で見つかり、私たちは商品を手にレジに並びました。

さて、娘がお会計をしようとしたら、ベビーカーにさげておいたバックがないではありませんか。慌てて探しましたが、どこにもありません。バックには財布と鍵が入っていました。私たちは手分けして、店内の心当たりの場所を探し回りましたが、もう後の祭りでした。

カスタマー・サービスで紛失届けを提出したあとは、銀行に連絡しなければなりません。その日は朝のうちにキャッシュ・カードの引き落とし限度額ぎりぎりの金額をおろしておりました。失くしたキャッシュ・カードではもう一銭も引き出せません。ですが、とにかくキャッシュ・カードの取引を止めてもらわなければなりません。お店のカスタマー・サービスの女性はとても親切な方で、わざわざ銀行の電話番号を調べてくれて、電話を貸してくれました。娘はすぐに電話で必要な手続きを済ませることができました。新しいキャッシュ・カードの再発行には15ドル掛かるそうです。

余談ですが、こちらのキャッシュ・カードは、一日にATMから引き出せる金額の上限が決められております。銀行によって、口座によって、上限の額は違うようですが、千ドル前後のようです。それ以上の金額を引き出したいときには、窓口に行かなければなりません。その際、身分証明書の提示を求められることがあります。

話を戻して、カスタマー・サービスの女性によると、置き引きや万引き、ひったくりが多いそうです。彼女の妹さんもつい先日、店内で500ドル盗まれたそうです。お友達も財布を盗まれたとか。うちの場合は盗まれたのか、単なる紛失なのか、その時点でははっきりしませんでしたが、盗まれたとしか考えられませんでした。店内のどこにも落ちていなかったのですから。

ショッピングセンターを後にする前に、メディケア(こちらの国民健康保険)のオフィスで、保険証の再発行の手続きをしなければなりません。メディケアのオフィスはたいてい大きなショッピングセンター内にあります。ですが、身分証明書がなくては手続きできないとのことでした。

次は、不動産屋です。鍵がなければ家に入れません。それにしても、バックを失くしたのが平日の昼間だったのが不幸中の幸いでした。もし、土曜の午後や日曜だったら、月曜まで不動産屋に連絡が取れませんし、平日の夜でも同じことです。家に入れず、おまけに一文無し。途方に暮れていたことでしょう。当たり前ですが、出掛ける際はそれぞれ鍵を持つべきですね。

これで一件落着かと思いきや、そうはいきませんでした。不動産屋で、セキュリティのためにドアの鍵を交換したほうがいいとすすめられたのです。室内に入るには、鍵を三つ開けなければなりません。建物の入り口のドアの鍵が一つと、各世帯のドアの鍵が二つです。部屋の二つの鍵のうち、デッドロックと呼ばれる片方の鍵を取り替えることになりました。不動産屋で鍵屋の手配をお願いすると、一時間ほどで来てくれました。費用は90ドルでした。

娘はあわただしくお昼を食べると、保険証の再発行と合鍵を作りに出掛けて行きました。不動産屋に鍵束と新しい合鍵も返さなくてはなりません。帰宅後は、失くした他のカードの再発行のために数箇所に電話をかけて、すべてが終わったのは夕方でした。

あれから一ヵ月半後、突然娘の通っていた歯医者の受付の方から電話がありました。娘によると、ショッピングセンターの警備員が、財布の中にあった診察券を頼りに娘を探しているとのことでした。

今頃になって、財布が見つかったのです。もう、親子二人で驚いてしまいました。驚かなかったのは孫だけでした。前日に「マニー(お金)、ない。知らない人、持っていった。でも戻ってくる。そう、戻ってくる」と預言者のようなことを話していたのですから。

すぐに、私たちはショッピングセンターに向かいました。そして、一ヵ月半ぶりに財布は娘の手に戻りました。想像していた通りお金はありませんでしたが、銀行のキャッシュ・カード、保険証、その他のカード類はそのまま財布の中に入っていました。財布は婦人服のポケットの中から発見されたそうです。犯人は現金を抜き取った後で、身近にあった婦人服のポケットに入れて、何食わぬ顔で店を立ち去ったのでしょう。探しても見つからないはずです。

不思議なのは、なぜ、歯医者さんから連絡がきたのかです。カスタマーサービスには連絡先を書いた紛失届けを提出したはずなのに。きっと、お店の方も紛失届けを失くしたのでしょうね。人のことはとやかく言えません。歯医者の受付のお嬢さん、ありがとうござました。どこの国にもいろんな人がいます。悪い人もいれば、良い人もたくさんいます。
みなさんも、気をつけましょうね。